マンションの耐震化はなぜ進まない?耐震診断、耐震改修工事のリスクとは | アセタス

マンションの耐震化はなぜ進まない?耐震診断、耐震改修工事のリスクとは

瀬下義浩
瀬下義浩

建築基準法の新耐震基準が設けられた1981年以前の建物は、新基準に適合した耐震改修工事を実施しているものが少なく、住民の不安を煽ることになります。
マンション管理士が必要に応じ、管理会社に適切なアドバイスを行っております。

耐震改修工事が必要なマンションは、多く存在する

1981年の建築基準法改正以前に建てられたマンションは、耐震強度が足りない状態のまま耐震改修工事が実施されていないものが多く存在します。
耐震改修工事が必要なマンションの割合は、都内や関西圏が多く、現在ある分譲マンションの1/5程度は、1981年以前に建築されたものであるため耐震改修工事が必要なマンションです。
全国規模でみると、600万戸あると言われている分譲マンションのうち、約150万戸、工事が必要と言われています。

まだまだ耐震改修をした建物の割合としては多いため、改善策が必要となってくるでしょう。
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なかなか耐震改修工事が進まない理由

耐震診断まで踏み切れないことが多々あります。1981年以前に建てられたマンションで耐震診断をすると、今と基準が異なるため、もともと基準にそぐわないので耐震不足である場合がほとんどです。一度診断をしてしまうと、その情報を不動産売買時には公表しなくてはならなくてはなりません。そのため、耐震診断をしたがるマンションが少ないのです。そのような理由からも、診断後の耐震改修を行うという先のことまで考える心構えでいないと、診断の実施はできないものです。

耐震診断のみ行い耐震不足などという情報を公表するというのは、所有者である以上、誰もが気がすすみません。それだけで、マンションの価値が落ちてしまいます。

また、分譲マンションの難しさとしては、そこに管理組合員(区分所有者)の声があるということです。そのマンションが30戸ならば、30世帯分の意見がでます。工事の決定は1回の総会で結論が出ることは稀で、話し合いが何度か必要になる場合のほうが多いでしょう。
私達マンション管理士は、「こういう問題がありますよ、備えておきましょう」などと過去の事例を挙げながらアドバイスをさせていただきます。スムーズに話し合いを進めるには、ある程度総会に向けて話をつめておくことが必要になります。

現在、耐震改修工事が進んでいる地域もある

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東京都の特定緊急輸送道路沿線に関しては、耐震改修工事が進んでいます。なぜなら、耐震診断のほとんどの費用だけではなく、耐震改修工事にかかる費用の大部分を東京都及び市区町村が負担してくれるからです。
特定緊急輸送道路と呼ばれる環八をはじめとした環状線、国道、井の頭通りなどは、建物が壊れてしまうと交通ラインがストップしてしまい、災害時において救援や復旧が遅れてしまいます。このような理由から災害対策のひとつとして、東京都は費用の最大5/6を補助金として負担し耐震改修を進めるよう推進しています。市区町村によって違いはありますが、それだけ出るのであれば、工事をしようというマンション管理組合が多いのです。

逆に、特定緊急輸送道路沿線以外のエリアで耐震改修工事が進まないのは、結局、改修資金をどうしたらいいのかという問題に直面するからです

私が顧問をしているマンションで昭和39年竣工のものがあります。
もちろん耐震改修工事が必要ですので、耐震診断を総会提案したところ却下されてしまいました。
古いマンションであるため、住んでいる方もご高齢者ばかりです。今さらローンを組めないという意見がありました。
ご高齢でも高所得の方々は新しいマンションに移り住みますし、古いマンションをわざわざお金を払ってまで改修する気はないと言われてしまいますと、こちらとしても、アドバイスのしようがありません。

マンションによっては4,000万円程度の耐震改修費で済んだという場合もありますが、耐震不足の程度による設計にもよりますので、1億円かかる場合もあります。耐震診断を実施するからにはそれだけの心づもりをしてやらないといけないということです。

耐震改修工事をする上でのリスク

耐震改修工事をする際、問題になりやすいのは部屋の中の工事をする場合です。
特に、特定された部屋だけを工事をする場合もあり、部屋内に補強材を追加して部屋が狭くなる場合など、揉めるケースが多くあります

マンションの工事は居住者が生活しているということを配慮することが、何よりも大変です。居住者の生活になるべく支障がないように、工事を進めていかなければなりません。
例えば部屋の中の耐震改修工事で室内に補強の柱を立てる、などとなると仮住まいをしなくてはなりません。外壁工事をする際も、工事をしている中で、住民の方は普段と変わらぬ生活をするわけです。
12年周期と言われる大規模改修工事では大体3ヶ月から半年、大型マンションだと1年程度、工事に時間がかかるので、その間は住民の皆様に我慢を強いることになってしまいます。

部屋の中は法律により、住居者の物と定められています。住居者が「今、受験生がいるから、工事はやめてくれ」と声をあげれば、その声を尊重し、応えてあげなければ円滑な合意形成は取れません。

外壁改修であっても、ドリルで穴を開けるとなると物凄い音が発生します。そのため、部屋の外の工事であっても部屋の中だけでなく、住民の方にいつ工事をするのかお知らせをし同意を得ながら進めていかないと、円滑な工事の遂行はできません。

また、ベランダは共用部分ですので、住居者の所有扱いでなく「借りている」ということになります。ベランダを共有部分として専用に使うことができる、という権利だけ住民が持っているのです。ベランダを工事する場合、工事により洗濯物を干したくても干せない状況も起きかねません。

玄関扉を耐震用にしましょうという場合があります。もし、地震で揺れ、扉が開かなくなると避難に支障が出ますので、全室の扉を改良するという工事があります。そうなると全室の居住者に影響がでますので、かなりの配慮が必要です。

これらの問題は、賃貸マンションの場合も同様ですが、借りている権利と所有の権利はまた異なります。工事なども大家さんが決めれば、賃借人である住民は従っていただくことになります。
人が生活している上で工事をするということは住民にとっても管理側にとっても一緒に乗り越えなければならないリスクになると言えるかもしれません。

マンション管理士として、アドバイスすること、今後どうしていくべきか

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耐震改修工事に関して、実際に多くかかわってくるのは、建築士である場合がほとんどです。
しかし耐震診断や耐震設計、耐震改修工事の前にも後にもいろいろな問題があるため、私がマンション管理士として、アドバイスできることは多岐にわたります。

結局のところ、耐震改修工事が進まない理由は、区分所有者に多額の負担がかかるので決断ができないという場合が多いのです。そのため解決策としては、行政が補助金を増やして法などで規制するしかないのではないでしょうか。
東京都では耐震診断をほぼ全額を補助して義務化にし、その後の耐震改修、耐震設計に関しては、相当額の補助金を制定して努力義務にしました。
補助金が出る特定緊急輸送道路沿道は良いですが、出ない場所に関して強制的にやらせるわけにはいきません。
では、補助金が出ないところはどうするのか、という問題があります。特定緊急輸送道路沿道以外は耐震診断も努力義務です。そうなりますと、補助金も少ししか出ないですし、やらない場合が多いでしょう。結局、お金が絡んでくることなので、難しいのです。

この先、特定緊急輸送道路沿道以外で耐震改修工事が進むのかというと、非常に疑問です。
今後、東京都の特定緊急輸送道路沿線以外で埼玉県各市も助成制度を設けるようになり、全国的に耐震診断の義務化を推進する動きが出てきています。
しかし、費用の大部分の補助金を出すというのも東京都の話であり、他の地方行政では十分な予算資金がないこともあるため、なかなか難しいのが現状です。

既存不適格、というものがあります。
これは当時適法に建設されてた建築物であっても、その後の法令の改正により不適格な部分が生じた建築物のことを言います。改修工事の際には適法化する努力義務とされてはいますが、後から法律改正があったばかりに、なかなか改善されてはいません。
1981年以前の建築基準法では、現在の新耐震基準ではなく旧基準だったので、途中で法律を改正されると対応が難しいのが現状です。

人生の最大級の買い物であるマンションですが、購入した後はマンションに関して無頓着という方が多いのも問題です。マンションの管理に対する認識が薄いため、我々がわかりやすくアドバイスさせていただきます。マンションというものはきちんと管理をしなくては、どんどん価値が下がってしまうということを認識していただき、マンション生活のクオリティの向上のお手伝いをさせて頂ければ幸いです。

管理規約・使用細則の変更はASETUS(アセタス)にご相談ください

管理規約や使用細則を変更する場合は、その背景にマンション特有の課題や問題があるため、単に変更案を作成して総会に提案するだけで簡単に承認に至るものではなく、また、承認されたとしても、変更後のルールを円滑に機能させるのは難しいものです。
アセタスでは、背景にある課題や問題を把握・分析し、居住者・管理組合のことを考えた「管理規約・使用細則の変更案の作成」や「組合員に対する説明と総会決議までのサポート」などを通じて、マンション生活のクオリティの向上のお手伝いを行っております。是非ご相談ください。

当コラムは執筆時の法律・判例に基づいております、参考にいただく際は最新の法律・判例を確認頂きますよう、お願い致します。また、平易な表現により、一部の例外・解釈等を簡略化している場合がございます。正確には個々のマンションの管理規約等、区分所有法等をご参照ください。
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